事業承継の問題点
事業承継が抱える諸問題を解説します。
1.定款のメンテナンスをしていない
定款の見直しや改定をした時期はいつ頃ですか?
中小企業の場合、設立当初から一度も定款を見直していないケースが多いです。
最近会社を設立したのであればまだしも、
設立後数十年を経っている会社ならば、一度定款を見直して修正することをお勧め致します。
それは何故でしょうか?
数十年も経ってしまうと、時代の変化に対応できない部分が出てくるからです。
以下、参考例をご説明します。
①相続人等に対する株式の売り渡し請求の規定
この平成18年以降に設立された会社の定款には雛形として入っていますが、それ以前の定款には記載されていません。
この規定は、株式を相続した者が会社にとって好ましくない場合、会社が株式の売渡請求できる規定です。親族内承継でとても重要な規定です。
しかし、この規定も親族以外の方が株式を所有している場合は注意が必要です。
こんな例で考えてみましょう。
現役社長が自社株を90%、専務が自社株を10%所有している場合、
売り渡し請求権の行使について、時系列で考えてみます。
1現役社長が死亡し相続開始
2社長の自社株を社長の相続人に相続させるか否かを決める。
3社長の相続に関する自社株であるため、社長の相続人に決定権なし
ところで、決定権者は誰になるのでしょうか?
答えは、専務が権利を行使できる「唯一の株主」であり決定権者になります。
専務が売り渡し請求権を行使すると、会社は専務のものになります。
この規定は現在の株式の所有者によっては、とても危険な存在となるのです。
②拒否権付株式(黄金株)発行の規定
拒否権付株式(黄金株)とは、「会社の決定を覆す権利」を付与された株式です。
社長がこれを所有すると有効なケースもありますが、他者に渡ってしまったら、会社運営に大きな支障がでる場合があります。
他社に渡らないように「譲渡制限付株式」にするなどの防御策をうっておきます。
2.株主の把握
「全て」の会社株主を把握できていますか?
何故「全て」をするのかといえば、少数の株式しか持っていない株主でも大きな権利を持っているからです。
事業承継の問題に発展しやすい株主の一部をご紹介させていただきます。
①名義株主の存在
平成18年より前に設立した会社の場合、発起人は7名以上必要だったため、
会社設立時に友人や親戚が「株式の名義人」になり、設立登記をしていました。その株主を「名義株主」と言います。
その後、変更登記をしないまま「名義株主」が残っているのです。
その少数株主は「会計帳簿閲覧権」や「役員の解任請求権」(取得株式3%以上)などの重要事項を請求できます。
さらに、名義株主の相続等によって、会社にとって不都合な人に株式が渡った場合、
その株主が会社の「会計帳簿」の閲覧請求権を行使したら、閲覧させねばなりません。
会計帳簿には会社の重要な事項が記載されていることもあり、大きなリスクになります。
さらには10%以上の株式を所有している株主に会社の「解散請求権」を行使できます。
一度全株主を調べて、買取等を含めたメンテナンスをする必要があります。
②株式が分散している場合
外部の方に株式が分散している場合だけでなく、親族内に分散している場合でも争いの火種となるケースがあります。
現在は仲の良く兄弟姉妹でも、利害が絡むと経営権争いがおこりがちです。
そのため、親族内で株式が分散している場合も、現役社長や次期後継者に株式を集約しておきましょう。
③その他
その他、下記のようなケースもトラブルに発展する可能性があります。
・所有不明株主の存在
・敵対株主の存在
・自社株評価が高い
・社長の財産が自社株に偏っている など
株主構成を把握できていない場合は、一度調べてみることをお勧めします。
3.社長の健康問題
社長が殆どの株式を所有している場合で、社長の健康問題に対する対策をしていないと大きな問題に発展します。
例えば、社長が認知症になったケースを想定しましょう。
いまや高齢者のうち5人に一人が認知症になると言われています。
認知症はとても身近な問題で他人ごとではないのです。
それでは、多くの自社株を所有している社長が認知症になった場合、どのような問題がおこるのでしょうか?
まず、判断能力(意思能力)がなくなります。
その結果、
・株主の決議ができない
・代表印を押すことができない
・決算処理ができない
・金融機関からの新たな資金調達ができない
など、経営に関するすべての決定事項が停止していまします。
後任の代表も決められないので、会社は事実上経営ができない状態になります。
中小企業の場合、社長の体調いかんで経営が傾くことも多いため、生命保険に入る、家族信託をおこなうなどの対策が必要です。
会社の健康診断
今回は、事業承継トラブルに発展しやすいケースをご紹介させていただましたがいかがでしたでしょうか?
会社も生き物ですから、経年劣化がおきていないか調べ、時々メンテナンスをしておきましょう。
そこで、この機会に会社も健康診断をしてみることをお勧めします。
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